【第222段】
「珍し」と言ふべき事には有らねど、文こそ、猶、めでたき物なれ。遥かなる世界に有る人の、いみじく覚束無く、「如何ならむ」と思ふに、文を見れば、唯今、差し向かひたるに覚ゆる、いみじき事なりかし。我が思ふ事を、書き遣りつれば、彼処までも、行き着かざるらめど、心行く心地こそ、すれ。文と言ふ事、無からましかば、如何に、いぶせく、暮れ塞がる心地せまし。万の事、思ひ思ひて、其の人の許へとて、細々と書きて置きつれば、覚束無さをも慰む心地するに、増して、返り事、見つれば、命を延ぶべかンめる。実に、理にや。