【枕草子・原文】第154段/胸、潰るる物、 ou 10か月前 胸むね、潰つぶるる物もの、競くらべ馬むま、見みる。元もと結ゆひ、縒よる。親おやなどの、心ここ地ち悪あしうして、例れいならぬ気け色しきなる。増まして、世よの中なかなど、騒さわがしき頃ころ、万よろづの事こと、覚おぼえず。又また、物もの言いはぬ児ちごの、泣なき入いりて、乳ちも飲のまず、いみじく、乳母めのとの抱いだくにも止やまで、久ひさしう、泣なきたる。例れいの所ところなどにて、殊ことに、又また、著いちじるからぬ人ひとの声こゑ、聞きき付つけたるは、理ことわり、人ひとなどの、其その上うへなど、言いふに、先まづこそ、潰つぶるれ。いみじく憎にくき人ひとの、来きたるも、いみじくこそ有あれ。昨よ夜べ、来きたる人ひとの、今け朝さの文ふみの、遅おそき、聞きく人ひとさへ、潰つぶる。思おもふ人ひとの文ふみ、取とりて、差さし出いでたるも、又また、潰つぶる。