【枕草子・原文】第126段 侘びし気に見ゆるもの ou 9か月前 侘わびびし気げに、見みゆるもの。六月みなづき、七月ふづきの午未むまひつじの時ときばかりに、汚気きたなげなる車くるまに、似非えせ牛うし、掛かけて、揺ゆるがし行ゆく者もの。雨あめ降ふらぬ日ひ、張はり筵むしろしたる車くるま。降ふる日ひ、張はり筵むしろせぬも。年とし老おいたる乞丐かたい。いと、寒さむき折をりも、暑あつきにも、下種げす女をんなの、形かたち、悪あしきが、子こを負おひたる。小ちひさき板いた屋やの、黒くろう、汚きたな気げなるが、雨あめに濡ぬれたる。雨あめの、甚いたく降ふる日ひ、小ちひさき馬むまに乗のりて前ぜん駆くしたる人ひとの、冠かうぶりも拉ひしげ、袍うへのきぬも、下した襲がさねも、一ひとつに成なりたる、如い何かに侘わしからむ、と見みえたり。夏なつは、然されど、良よし。