【第324段】
見苦しき物、
衣の背縫ひ、片寄せて、着たる人。又、仰領、したる人。下簾、汚気なる、上達部の御車。例ならぬ人の前に、子を、率て行きたる。袴着たる童の、履きたる。其れは、今様の者なり。壺装束したる者の、急ぎて歩みたる。法師陰陽師の、紙冠して、祓へしたる。又、色黒う、痩せ、憎気なる女の鬘したる。鬚勝ちに、痩せ痩せなる男と昼寝したる。何の、見る甲斐に、臥したるにか有らむ。夜などは、容貌も見えず。又、押し並べて、然る事と成りにたれば、我、憎気なりとて、起き居るべきにも有らずかし。翌朝、疾く起き、往ぬる、目安し。夏、昼寝して、起きたる、いと良き人こそ、今少し、をかしけれ。似非容貌は、艶めき、寝腫れて、良うせずは、頬歪みも、しつべし。互みに、見交はしたらむ程の、生ける甲斐無さよ。色黒き人の、生絹・単衣、着たる、いと見苦しかし。伸し単衣も、同じく透きたれど、其れは、片端にも見えず。臍の通りたればにやあらむ。