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【枕草子・原文】懸命に尽くすピュアな心の空回りを、老尼と清少納言を重ねて描いた銘文<第92段>

老尼は清少納言であり、清少納言は老尼。2人を重ねて読むと味わい深い。その様な段ではないかと、私は思います。


やや長いので、
場面に1~6の題を付けて区切ってみました。

老尼のピュア


しき御曹司みざうし御座おはしますころ西にしひさしに、だん御読経みどきやうるに、ほとけなど、たてまり、ほふたるこそ、さらなることなれ
二日ふつかばかりりて、えんもとに、あやものこゑにて、「なほ仏供ぶつぐろし、はべなむ」とへば、(僧)「で。まだ」といらふるを、(清少納言)「なにふに」と、でて、れば、たるをんなほふの、いみじくすすけたかりばかまの、つつとかやうに、ほそみじかきを、おびよりしも五寸ごすんばかりなるころもとかべからおなやうすすたるて、さるさまにて、なりけり。(清少)「あれは、なにごとふぞ」とへば、こゑつくろひて、「ほとけ弟子でしさぶらば、ほとけろし、べとまうすを、ぼうたちたま」とふ。はなやかに、みやびなり

老尼の空回り

(清少)「かるものは、くんたるこそ、あはなれうたても、はなやかなるかな」とて、(清少)「ことものは、はで、ほとけの御ろしをのみふか。いとたふとことかな」としきて、(老尼)「などか、ことものも、ざられが、さぶらはねばこそ、まうはべ」とへば、菓物くだものひろもちなどを、ものれて、らせたるに、無下むげに、なかて、よろずことかたる。
わか人々ひとびとて、(女房)「をとこる」「何処いづこむ」など、口々くちぐちふに。をかし諷言へそごとなどすれば、(女房)「うたは、うたふや」「まひなど、する」と、ひもに、(老尼)「よるは、たれ常陸ひたちすけたるはだも、し」。これすゑいとおほかり。また、「をとこやまの、みね紅葉もみじ」と、かしらまろがし、る。いみじくにくければ、わらにくみて、(女房)「ね」「ね」とふも、いと、をかし。(清少)「これに、なに」とふを、かせたまひて、(中宮定子)「いみじうど、かたはらいたことは、させつるこそかで、みみふたぎてつれきぬひとらせて、りてよ」と、おはごとれば、りて、(清少)「れ、たまはらするきぬすすたりしろくて、よ」とて、らせたれば、をがみて、かたにぞけて、ふものか。まことに、にくくて、みなにし
のちには、らひたるつねに、えしらがひて、ありく。やがて、「常陸ひたちすけ」と、たりきぬしろめず、おなすすけにてれば、(女房)何処いづちりにけむ」などにくむに、こんないまゐたるには、(中宮)「ものなむかたらひけて、きためるして、つねこと」と、りし様など、ひやうひとして、まねばせて、かせたまへば、(右近の内侍)「あれはべかならず、せさせたまへ。得意とくいなりさらに、も、かたらひらじ」など、わらふ。のちまたあまなるかたの、いとあでやかなるが、たるを、またでて、ものなどふに、これは、づかしおもひて、あはなれば、きぬひとつ、たまはせたるを、をがむは、し。て、よろこびて、ぬるを、はや常陸ひたちすけひて、けりのちいとひさしくえねど、たれは、おも

清少納言のピュア

て、十二月しはす十日余とをかあまりのほどに、ゆき、いとたかう、たるを、にようぼふどもなどして、ものふたつ、いとおほくを、「おなじくは、にはに、まことやまを、つくはべ」とて、さぶらひして、おはごとにてへば、あつまりてつくるに、主殿司とのもりつかさひとにて、きよめにまゐたるなども、みなりて、いとたかく、つくす。みやづかさなど、まゐあつまりて、ことくはへ、ことつくれば、ところしう三人みたり四人よたりまゐ主殿司とのもりづかさひとも、二十人はたたりばかりに、りにけりさとなるさぶらひしに、つかはしなど。「やまつくひとには、ろくたまはすべしゆきやままゐざらひとには、おなじからず。」などへば、たるは、まどまゐるも、り。さととほきは、らず。
つくつれば、宮司みやづかさして、きぬ二結ふたゆいらせて、えんに、づるを、ひとつづつ、りて、をがつ、こしして、みな罷出まかンでぬ。うへのきぬなど、たるは、かたらで、かりぎぬにてぞる。
(中宮)「これ何時いつまで、なむ」と、人々ひとびとのたまするに、「十日とをかあまりは、なむ」、ただほどかぎり、まうせば、(中宮)「に」と、はせたまば、(清少)「つき十五じふごにちまで、さぶらなむ」とまうすを、まへにも、(中宮)「」とおぼめりにようぼうなどは、すべて、(女房)「としうち晦日つごもりまでも、」とのみまうすに、(清少)「あまり、とほくも、まうしてけるかな。に、も、は、ざら朔日ついたちなどぞ、まうべかりける」と、したにはおもへど、(清少)「はれ。までくと、めてことは」とて、かたう、あらが
二十日はつかほどに、あめなどゆべくもし。たけぞ、すこし、おとく。(清少)「白山しらやまかんのんこれきやさせたまな」といのるも、ものぐるほし。
て、やまつくたる式部しきじょう忠隆ただたか御使おつかひにて、まゐたれば、しとねだし、ものなどふに、(源忠隆)「今日けふゆきやまつくたまところなむき。御まへつぼにも、つくたま春宮とうぐう弘徽殿こきでんにも、つくたまきようごく殿どのにも、つくたま」などへば、

(清少)此処ここにのみめづらしとゆきやま所々ところどころりにけるかな

と、かたはなるひとして、すれば、度々たびたびかたぶきて、(忠隆)「かへしは、つかうまつけがあざれたり。まへに、ひとにをかたはべ」とて、うたは、いみじくこのきしに、怪し。御前に聞こし召して、(中宮)「いみじくく、とおもらむ」とのたまする

老尼の悲しみ


晦日つごもりがたに、すこし、ちひさくようなれど、なほ、いとたかくて、るに、ひるかたえんに、人々ひとびとなど、たるに、常陸ひたちすけたり。(清少)「なにど、いとひさしく、ざりつる」とへば、(常陸の介)「なにか。いとこころことの、はべしかば」とふに、(清少)「如何いかに。なにごとぞ」とふに、(常陸の介)「なほおもはべなり」とて、ながやかに、づ。
(常陸の介)「 -うらやましあしかれずわたつうみなるものたまらむ- となむおもはべ」とふを、にくわらいて、ひとの、入れば、ゆきやまのぼり、かかづらひありきて、ぬるのちに、こんないに、「なむ」と、たれば、「などひとへて、には、たまはせざりし。かれが、はしたなくて、ゆきやままで、かりつたけむるこそ、いとかなしけれ」とるを、またわらふ。

清少納言の空回り

ゆきやまは、つれなくて、としかへりぬ。朔日ついたちまたゆきおほたるを、(清少)「うれしくも、たるかな」とおもふに、(中宮)「これは、あいなし。はじめのをば、きて、いまのをば、てよ」と、おほらるうへにて、つぼねへ、いとるれば、さぶらひをさなるものごとくなる宿直とのゐぎぬそでうへに、あおかみの、まつたるを、きて、わななたり。(清少)「は、何処いづこのぞ」とへば、(侍の長)「さいゐんより」とふに、ふと、めでたくおぼえて、りて、まゐ
だ、大殿籠おほとのごもりたれば、母屋もやたりたる格子かうしおこななど、せて、ひとねんじて、ぐる、いとおもし。かたかたなれば、ひしめくに、おどろかせたまひて、(中宮)「する」とのたますれば、(清少)「さいゐんより、御ふみさぶらには、でか、いそはべざら」とまうすに、(中宮)「に、いとかりけり」とて、きさせたまへり。ふみけせたまへれば、すんばかりなるづちふたつを、づゑの様に、かしらつつみなどして、山橘やまたちばな日陰蔓ひかげ山菅やますげなど、うつくかざりて、ふみし。ただなるやうはとて、らんずれば、づちかしらつつみたるちひさきかみに、

選子せんし山響やまとよをのひびきをたづぬれいはひのつゑおとにぞける

御返おかへし、かせたまほども、いと、めでたし。齋院さいゐんには、これより、こえさせたまかへしも、なほこころことに、かきけがし、おほく、御用意よういたる御使おつかひに、しろおりものひとほうなるは、むめめりしか。ゆきたるに、かづきてまゐるも、をかしゆ。たびかへごとを、にしこそ、くちしかりしか
ゆきやまは、まことに、こしのにやえて、し、くろりて、さま、したる。ぬる心地ここちして、如何いかで、十五日とをかあまりいつかさせむとねんずれど、(女房)「七日なぬかをだに、えぐさ」と、なほへば、(女房)「で、これ」と、みなひとおもほどに、にはかに、内裏だいりらせたまふべし。いみじうくちしく、(清少)「やまてを、なりなむこと」と、忠実まめやかにおもふほどに、ひとも、(女房)「に、ゆかしかりつるものを」などふ。まへにも、おはらる。(清少)「おなじくは、てて、らんさせ」とおもへるければ、ものはこび、いみじうさわがしきにはせて、もりものの、ついほどに、ひさしして、たるを、えんもとちかく、せて、「ゆきやま、いみじくまもりて、わらはべなどに、させこぼたせで、十五日とをかあまりいつかまで、さぶらせ。く、まもりて、たらば、めでたきろくたまはせわたくしにも、いみじよろこび、」などかたらひて、つねだいばんどころひとなどに、ひて、るる菓物くだものなにと、いとおほらせたれば、みて、(木守)「いとやすことたしかに、まもはべらむわらはべなどのぼはべ」とへば、「れをせいして、かざらものは、ことよしまうせ」など、て、らせたまぬれば、七日なぬかまでさぶらひて、でぬ。
ほども、これうしろめたきままに、おほやけひと洗女すまし長女をさめなどして、えず、いまめしり、七日なぬかの御ろしなどをりたれば、をがつることなど、かへりては、わらへり。
さとにても、くる、すなはち、これ大事だいじにして、せにる。十日とをかほどには、(使者)「ろくしやくばかりり」とへば、うれしくおもふに、十三日とをかあまりみかよるあめ、いみじくれば、(清少)「これにぞらむ」と、いみじくちし。(清少)「いま一日ひとひけで」と、て、なげけば、ひとも、「ものぐるほし」と。わらふ。ひとの、きてくに、やがて、て、こさするに、さらに、きねば、にくみ、はらたれて、たるを、りて、すれば、(下部)「円座わらふだばかりに、はべる。もり、いとかしこう、わらはべせで、まもりて、(木守)「までも、さぶらべしろくたまらむ」とまうす」とへば、いみじくうれしく、(清少)「しか、ば、いとうたみて、まゐ」とおもふも、いとこころもとう、びしう、だ、くらきに、おほきなるおりびつなど、て、(清少)「これに、しろらむところひたものれて、きたならは、てて」など、くくめて、たれば、いとつるものげて、(下部)「はやう、はべけり」とふに、いと、あさまし。
をかしう、でて、ひとにもかたつたさせと、うめんじつるうたも、いと、あさましく、く、(清少)「に、しつるなら昨日きのふばかり、けむものを。ほどに、らむこと」と、くんずれば、(下部)「もりまうるは、(木守)「昨日きのふいとくらまで、はべろくたまらむと、おもつるものを、たまはらず、ぬること」と、ちて、まうはべつる」と、さわぐに、内裏だいりより、おはごとりて、(中宮)「て、ゆきは、今日けふまで、や」とのたまたれば、いと、ねたく、くちしけれど、(清少)「(人々)「としうち朔日ついたちまでだに」と、人々ひとびとけいたまし。昨日きのふゆふれまで、はべを、いとかしこしとなむおもたまる。今日けふまでは、あまりのことになむ。(清少)「ほどに、ひとの、にくがりて、はべるにや」となむ。はかはべと、けいさせたまへ」とこえさせ

清少納言の悲しみ


て、二十日はつかまゐたるにも、づ、ことを、まへにてもふ。(下部)「みなえつ」とて、ふたかぎり、げて、たりつるぼうやうにて、すなはち、まうたりつるが、あさましかりことものふたに、やまうつくしうつくりて、しろかみに、うた、いみじくきて、まゐとせしことなどけいれば、いみじくわらたままへなる人々ひとびとも、わらふに、(中宮)「う、こころれて、おもひけることを、たがたれば、つみまことには、ゆふさりさぶらひども、りて、させしぞ。かへごとに、てたりこそ、をかしかりか。おきなて、いみじうりて、ひけれど、(侍)「おはごとぞ、の、たらひとに、な。らば、うちこぼ」とひて、こんつかさみなみついに、みなてし。(侍)「いとたかくて、おほなむ」と、ふなりしかば、に、二十日はつかまでもけて、は、としはつゆきにも、まし主上うへにも、こしして、(一条天皇)「いとおもがたく、たり」と、殿でんじやうびとなどにも、おはせられけりても、うたかたれ。いまは、あらつれば、おなことたりかたれ」など、まへにものたまはせ、人々ひとびとのたまへど、(清少)「なにばかりのことを、うけたまはりながら、けいはべ」など、やかに、く、こころがれば、主上うへも、わたたまひて、(天皇)「まことに、としごろは、おほくの人めりとつるを、これにぞ、あやしくおも」などおはらるるに、いとどつらく、ちもべきここぞする。(清少)「いであはれ。いみじなかかしのちに、たりゆきを、うれしとおもひしを、(中宮)「れは、あいなし」とて、(中宮)「てよ」とおはごとはべしか」とまうせば、(天皇)「に、(中宮)「たせ」と、おぼしけるなら」と、主上うへも、わらはせします

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