【枕草子・原文】第277段　ただ、あしたは、

唯ただ、朝あしたは、然さしもあらず、冴さえつる空そらの、いと暗くらう、掻かき曇くもりて、雪ゆきの、掻かき暗くらし降ふるに、いと心こころ細ぼそく、見み出いだす程ほども無なく、白しろく積つもりて、猶なほ、いみじう降ふるに、随ずい身じん立だちて、細ほそやかに、美々びびしき男をのこの、唐から傘かさ、差さして、側そばの方かたなる家いへの戸とより入いりて、文ふみを、差さし入いれたるこそ、をかしけれ。いと白しろき陸奥国みちのくに紙かみ、白しろき色しき紙しの結むすべたる上うへに、引ひき渡わたしける墨すみの、ふと、氷こほりにければ、裾すそ薄うすに成なりたるを、開あけたれば、いと細ほそく、巻まきて、結むすびたる巻まき目めは、細々こまごまと凹くぼみたるに、墨すみの、いと黒くろう、薄うすく、行くだり、狭せはに、裏うら表うら、書かき乱みだりたるを、打うち返かへし、久ひさしう見みるこそ、何なに事ごとならむと、外よそにて、見み遣やりたるも、をかしけれ。増まいて、打うち微ほほ笑ゑむところは、いと懐ゆかしけれど、遠とほう居ゐたるは、黒くろき文も字じなどばかりぞ、然さな^ンめりと覚おぼゆるかし。額ひたひ髪がみ、長ながやかに、面おも様やう、良よき人ひとの、暗くらき程ほどに、文ふみを得えて、火ひ、燈ともす程ほども、心こころ許もと無なきにや。火ひ桶おけの火ひを、挟はさみ上あげて、たどたどし気げに、見み居ゐたるこそ、をかしけれ。

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