【枕草子・原文】第72段　覚束無き物

【第72段】
覚束無おぼおつかなき物もの、
十二年の山籠やまごもりの法師ほふしの女親めおや。知しらぬ所ところに、闇やみなるに行ゆき合あひたるに、「露あらはにもぞ有ある」とて、火ひも点ともさで、さすがに、並なみ居いたる。今いま、出いで来きたる者ものの、心こころも知しらぬに、止事無やんごとなき物もの、持もたせて、人ひとの許がり、遣やりたるに、遅おそく帰かへる。物言ものいはぬ児ちごの、反そり覆くつがへりて、人ひとも抱いだかれず、泣なきたる。暗くらきに、苺いちご、食くひたる。人ひとの顔かほ、見知みしらぬ物見ものみ。

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