【第103段】
あさましき物、
挿櫛、磨く程に、物に障へて、折れたる。車の、打ち返されたる。然る、大のかなる物は、所狭く、久しくなどや有らむ、とこそ思ひしか。唯、夢の心地して、あさましう、文無し。
人の為に、恥づかしき事、慎みも無く、児も、大人も、言ひたる。「必ず、来なむ」と、思ふ人を、待ち明かして、暁方に、唯、些か、忘れて、寝入りたるに、烏の、いと近く、「かう」と鳴くに、打ち見上げたれば、昼になりたる、いと、あさまし。調半に、筒、取られたる。無下に、知らず、見ず、聞かぬ事を、人の、差し向かひて、抗はすべくも無く、言ひたる。物、打ち零したるも、あさまし。賭弓に、慄く慄く、久しう有りて、外したる矢の、持て離れて、異方へ行きたる。