御佛名の翌朝、地獄繪の御屏風、取り渡して、中宮に、御覧ぜさせ奉り給ふ。いみじう、忌々しき事、限り無し。(中宮定子)「此、見よかし」と仰せらるれど、(清少納言)「更に、見侍らじ」とて、忌々しさに、上屋に、隠れ臥しぬ。
雨、甚く降りて、徒然なりとて、殿上人、上の御局に召して、御遊び、有り。道方の少納言、琵琶、いと、めでたし。済政の君、箏の琴、行成、笛、経房の中将、笙の笛など、いと面白う、一渡り、遊びて、琵琶、弾き止みたる程に、大納言殿の、(藤原伊周)「琵琶の聲は停めて、語する事、遅し」と言ふ詩を、誦んじ給ひしに、隠れ臥したりしも、起き出でて、(中宮たち)「罪は、恐ろしけれど、猶、物のめでたきは、え止むまじ」とて、笑はる。御聲などの、優れたるには有らねど、折の、殊更に、作り出でたる様なりしなり。