風は、嵐。木枯。三月ばかりの夕暮れに、緩く吹きたる花風、いと哀れ也。八月・九月ばかりに、雨に交じりて、吹きたる風、いと哀れ也。雨の脚、横様に、騒がしう吹きたるに、夏、通したる綿衣の、汗の香など、乾き、生絹の単衣に、引き重ねて、着たるも、をかし。此の生絹だに、いと暑かはしう、捨てまほしかりしかば、「何時の間に、斯う、成りぬらむ」と思ふも、をかし。暁、格子、妻戸など押し上げたるに、嵐の颯と吹き渡りて、顔に沁みたるこそ、いみじうをかしけれ。九月晦日、十月朔日の程の空、うち曇りたるに、風の甚う吹くに、黄なる、木の葉どもの、ほろほろと零れ落つる、いと哀れなり。桜の葉、椋の葉などこそ、落つれ。十月ばかりに、木立多かる所の庭は、いと、めでたし。