【枕草子・原文】第258段 嬉しき物

【第258段】
 うれしきもの
 物語ものがたりの、おほかる。またひとつをて、いみじうゆかしうおぼゆるものがたりの、ふたつ、けたる。こころおとりするやうも、しか
 ひとの、たるふみを、るに、おなつづき、数多あまたたる
 「如何いかならむ」と、ゆめて、「おそろし」と、むねつぶるるに、ことにもらず、はせなど、したるいとうれし。
 ひと御前おまえに、人々ひとびと数多あまたさぶらおりに、むかしけることにもれ、いまこしし、けることにもれ、かたらせたまふ、われ御覧ごらんはせて、のたまはせ、かせたまへる、いとうれし。
 とほところは、さらなり、おなみやこなかながら、に、止事無やんごとなおもひとの、なやむを、きて、「に、に」と、覚束無おぼつかななげくに、おこたたる消息せうそこたるも、うれし。
 おもひとの、ひとにもめられ、止事無やんごとなひとなどの、くちしからぬものに、おぼし、のたまふ。
 ものをりしは、ひとと、はしたるうたの、こえて、められ、うちぎきなどに、らるるみづからのうへには、らぬことなれど、なほおもるるよ。
 いたう、たらひとひたるに、ふることの、らぬを、たるも、うれし。のちに、なかなどにて、たるは、をかしう、「ただこれにこそけれ」と、たりひとぞ、をかしき。
 陸奥国紙みちのくにがみしろ色紙しきしただのも、しろう、きよきは、たるも、うれし。
 恥づかしきひとの、うた上句もと下句すゑひたるに、ふと、おぼえたる、われながら、うれし。つねにはおぼゆることも、またひとふには、きよわすれて、ぬるをりぞ、おほかる。
 とみものもとむるに、でたる。ただいまべきふみなどを、もとうしなひて、よろづものを、かへがへす、たるに、さがでたる、いとうれし。
 物合ものあはせなにくれと、いどことに、たるでか、うれしからざらむ。また、いみじう、「われは」とおもひて、したりがほなるひとはかたるをんなよりも、をとこは、さりて、うれし。「たうは、かなら、せむらむ」と、つねに、こころづかひせらるるも、をかしきに、いと、つれなく、なにともおもたらやうにて、たゆごすも、をかし。
 にくものの、しきるも、「つみは、らむ」とおもひながら、うれし。
 挿櫛さしぐしむすばせて、をかしなるも、またうれし。おもひとは、よりも、まささりて、うれし。
 御前おまへに、人々ひとびとところく、たるに、いまのぼたれば、すこし、とほはしらもとなどにたるを、らんけて、「」とおほせられたれば、みちけて、ちかく、たるこそうれけれ

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