生ひ先無く、忠実やかに、似非幸ひなど、見て居たらむ人は、燻せく侮らはしく、思ひ遣られて、猶、然りぬべからむ人の娘などは、差し交じらはせ、世の中の有様も、見せ習はさまほしう、内侍などにても、暫し、在らせばやとこそ、覚ゆれ。宮仕へする人をば、淡々しう、悪ろき事に思い居たる男こそ、いと、憎けれ。実に、其も、又、然る事ぞかし。懸けまくも畏き、御前をはじめ奉り、上達部、殿上人、四位、五位、六位、女房は更にも言はず、見ぬ人は、少なくこそは有らめ。女房の従者ども、其の里より、来る者ども、長女、御厠人、礫瓦と言ふまで、何時かは、其れを、恥ぢ隠れたりし、殿ばらなどは、いと、然しも有らずや有らむ。其れも、有る限りは、然ぞ、有らむ。「上」など言ひて、傅き据ゑたるに、心憎からず覚えむ。理なれど。内侍の次官など言ひて、折々、内裏へ参り、祭の使ひなどに、出でたるも、面立たしからずやは有る。然て、籠もり居たる人は、いと、良し。受領の、五節など、出だす折、然りとも、甚う鄙び、見知らぬ事、人に問ひ聞きなどはせじと、心憎きものなり。