枕草子「いみじう仕立てて」/原文と意訳

枕草子・訳③

原文

十二分に手をかけて婿を迎えたのに、幾日も経たないうちに住まなくなっていた婿と、出先などで顔を合わせる、愛おしいと思えるだろうか。

勢いに乗っている時にある人の婿になって、一月ひとつきも真ともに来ないで、そのまま音沙汰おとさたもなくなったものだから、誰もが、ひどく言い騒いで、身内では、不吉ふきつな事を言う人まで居たというのに、その翌年の正月に、蔵人に成ったという。「浅ましい、こんな人が何でと人は思うわ」など言い交わされていたのは、耳にしたと、思う。

六月に、法華ほっけの勉強会である八講はっこうを受けさせていただく所に、人が集まることがあって、聞けば『この蔵人になった婿は、美しい袴、許された者しか身につけることの出来ない色の蘇芳襲に、黒半臂など、とても鮮やかな出立いでたちで、婿入りした家の牛車の後ろの柄に、半臂の緒を引掛けるほどにして居たものだから、知る限り皆「どう受けとめたらいいものか」と愛おしがっていたし、余所よその人達も「平静を装っていたのかもな」など、後々までも言っていた』と。

たぶん、男は、愛おしさ・・・、皆が大騒ぎしていた時のおもいは知らないでしょうね。

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