御方々、公達、上人など、御前に、人多く候へば、廂の柱に、寄り掛かりて、女房と物語して居たるに、物を、投げ、賜わせたる。開けて見れば、(中宮定子)「思ふべしや。否や。第一ならずは、如何」と、問はせ給へり。
御前にて、物語などする序でにも、(清少納言)「全て、人には、一に思はれずは、更に、何にかせむ。唯、いみじう憎まれ、悪しう、せられて有らむ。二・三にては、死ぬとも有らじ。一にてを、有らむ」など言へば、(女房)「一乗の法なり」と、人々笑ふ事の筋なンめり。筆・紙、賜はりたれば、(清少)「九品蓮台の中には、下品と言ふとも」と書きて、参らせたれば、(中宮)「無下に、思ひ屈じにけり。いと、悪ろし。言ひ初めつる事は、然てこそ、有らめ」と宣はすれば、(清少)「人に従ひてこそ」と申す。(中宮)「其れが、悪ろきぞかし。「第一の人に、又、一に思はれむ」とこそ、思はめ」と、仰せらるるも、いと、をかし。