内裏は、五節の程こそ、漫ろに、ただならで、見る人も、をかしう、覚ゆれ。主殿司などの、色々の裂布を、物忌の様にて、彩色、付けたるなども、珍しく見ゆ。清涼殿の反橋に、元結の斑濃、いと気鮮やかにて、出でたるも、様々に付けて、をかしうのみ。上雑仕、童女ども、いみじき色節と思ひたる、いと理なり。山藍、日陰蔓など、柳筥に入れて、冠したる男、持て歩く、いと、をかしう見ゆ。殿上人の、直衣、脱ぎ垂れて、扇や、何やと、拍子にして、「司、増されと、重波ぞ立つ」と言ふ歌を、歌ひて、局どもの前、渡る程は、いみじく、添ひ立ちたらむ人の心、騒ぎぬべしかし。増して、颯と、一度に笑ひなどしたる、いと恐ろし。
行事の蔵人の掻練襲、物より異に、清らに見ゆ。褥など、敷きたれど、却々、えも上り居ず。女房の、出でたる様、誉め、謗り、此の頃は、異事は、無かンめり。
帳台の夜、行事の蔵人、いと厳しう、持て成して、(蔵人)「掻い繕ひ、二人、童より外は、入るまじ」と抑へて、面憎きまで、言へば、殿上人など「猶、此、一人ばかりは」など、宣ふ。(蔵人)「羨み、有り。如何でか」など、堅く言ふに、中宮の御方の女房、二十人ばかり、押し凝りて、事々しう言ひたる蔵人、何ともせず、戸を押し開けて、さざめき入れば、呆れて、(蔵人)「いと、此は、筋無き世かな」とて、立てるも、をかし。其れに付きてぞ、傅どもも、皆、入る。気色、妬気なり。主上も、御座しまして、いと、をかしと、御覧じ御座しますらむかし。童舞の夜は、いと、をかし。燈台に、向かひたる顔ども、いと、労た気に、をかしかりき。