【第204段】
五月ばかり、山里に歩く、いみじく、をかし。沢水も、実に、唯、いと青く見え渡るに、上は、つれなく、草、生ひ繁りたるを、長々と、直様に行けば、下は、えならざりける水の、深う有らねど、人の歩むに付けて、迸り、上げたる、いと、をかし。
左右に有る垣の、枝などの掛かりて、車の屋形に入るも、急ぎて、捕らへて、折らむと思ふに、ふと、外れて、過ぎぬるも、口惜し。蓬の、車に押し拉がれたるが、輪の、舞ひ立ちたるに、近う、香かへたる香も、いと、をかし。
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