第99段「上の御局の」は訳本・注釈書等を読むことで、清少納言が描いた世界を十分に味わえる段。
書かれた当時は流行っていた漢詩。
「枕草子」を入口に、訳本・注釈書から得られるものも魅力的です。
背景にある漢詩『琵琶行』
著者
白居易
概要
815年、白居易は江州の司馬に左遷され、失意のうちにあった。 翌年秋、波止場に客を送りに行く船の中で琵琶の音を聞く。雅な音。かつて都で琵琶を弾いていたという零落したという妓女に出会う。哀れな身の上話にみずからの流謫の悲しみを重ね合わせて作ったとされる漢詩。
意訳
琵琶の音色に惹かれ、誰が弾いているのかと声を掛ける。返事は帰ってこない。何度も声をかけやっと来てくれたが、顔を隠すかのように琵琶を胸に抱えている。
身の上話を聞いた。
どうか一曲お願いしたい、私もあなたのために琵琶の音色を詩に変えて『琵琶行』を書きましょう、と。
琵琶の音
皆、泣いた
最も泣いていたのは誰・・・。
第99段「上の御局の」一部抜粋訳
上の御局の御簾の前にて、殿上人、日一日、琴、笛吹き、遊び暮らして、罷出別るる程、未だ、格子を参らぬに、大殿油を差し出でたれば、戸の開きたるが、露なれば、琵琶の御琴を、縦様に、持たせ給へり。紅の御衣の、言ふも世の常なる、袿、又、張りたるも、数多、奉りて、いと黒く、艶やかなる御琵琶に、御衣の袖を打ち掛けて、捉へさせ給へるめでたきに、側より、御額の程、白く、けざやかにて、僅かに見えさせ給へるは、
(清少納言)「半ば隠したりけむも、え斯うは、有らざりけむかし。其れは、直人にこそありけめ」
訳
「半ば隠したりしてみても、絶対この感じでは、無いはね。それは、一般の方だからこそいいのよ」
と言ふを、聞きて、心地も無きを、理無く、分け入りて、啓すれば、笑はせ給ひて、
訳
と言うのを聞いて、落ち着いてはいられないとこの話を、わきまえも無くし、分け入って、お伝えすれば、御笑いになられて、
訳
あなたは、知っていて、ね?
訳
と仰せられていたと、伝えられ、それも、なんだか楽しい。